つて置いて、福助の方ばかり見て居る。是は二年前の目黒の競馬であつたが、丁度私の買はうと思つて居る馬を、福助君も買ひに来て居つて、私の隣の窓から今や手を突込まうとして居つた。其時に上から女事務員の顔を見ると、あゝ大穴でも取つたやうなにこ/\顔して、福助の手が握れるとむづ/\して居つた。其時癪に障つたので、私の手を横合からにゆつと突込んだ、所が事務員は其前に福助が居るから其手を福助と思つたものか、さあ握つたが、何処ともなく力が這入つてぐつと握り締めた。四秒か五秒かで済むものが、其時は十二三秒も掛つたでせう。私も度々馬券売に手は握られたけれども、あの時ほど心持好う力の這入つた握り様をして貰つたのは初めてゞ嬉しい感じがしたが、熟々考へて見ると、之を私の手と思つて握つて呉れて居るならば有難いが、其前に居る福助君の手と思つて握つて居るから余り有難い気持がせぬ。愈々手を抜きしなに、上から首を出して事務員に云ふてやりました。君福助君の手だと思ふて嬉しさうに暫く握つて居つたが、実は横合いから手を突込んだ、僕の手だつだよと云つたら、アラツ! 生け好かない落語家の手だつたわ、とこんなことを云ひましたが、全く
前へ
次へ
全18ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
桂 小南 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング