、その効用は爭ひ難いものであると私は思ふ。そしてそれは、それが一般的になると、社會の理想を革新して、專制政治や、西歐の諸國民がその下に苦み、殆んどそれがために壓し潰されて死にかけてゐるところの、又東洋の諸國民さへも壓倒されさうになつてゐる、かの旺盛な軍國主義を滅してしまふであらう。若し過般の爭鬪によつて、出來るだけ完全に近い受動的抵抗者になることに一身を捧げる印度人が何人でも生れたとしたならば、その人々は、最も眞正な意味に於て、自分のためになる事をしたばかりでなく、廣く人類のために貢獻したのだ。
受動的抵抗は最も崇高で、最も良い教育である。それは、兒童に讀み書きを教へてから教へらるべきものではなく、その前に教へらるべきものである。兒童は、アルフアベツトを書き、世間的知識を習得する前に、魂とは何か、眞理とは何か、精神のうちにはいかなる力が潜んでゐるかを學ぶべきであることは、何人も否定し得ないだらう。人生の爭鬪に於て、愛によつて憎惡を、眞理によつて虚僞を、受難によつて暴力をたやすく征服し得ることを兒童に教へるのは、眞の教育の根本要素であらねばならぬ。私が過般の爭鬪の後半期に、かかる方針に基き、最初にトルストイ農園に於て、次ぎにフエニツクスで、出來るだけ子供の教育に努力したのは、私がこの眞理の力を感じたからである。そして、私が印度に向つて出發する理由の一つは、受動的抵抗者としての[#「受動的抵抗者としての」は底本では「受働的抵抗者としての」]自分の不完全を尚一層自覺せむがためである。何となれば、私はさういふ完全さに最も近く近づき得る場所は印度であると信じてゐるからだ。
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(ガンヂーが南アフリカで發行してゐた「インデイアン・オピニオン」の記念號(一九一四年)に發表した論文。)
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底本:「ガンヂーは叫ぶ」アルス
1942(昭和17)年6月20日初版発行
初出:「インデイアン・オピニオン」
1914(大正3)年
入力:田中敬三
校正:小林繁雄
2007年4月30日作成
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