には獸性より優れた或るものがあつて、後者は常に前者に服從するのだといふことを知る人だけが、有力な受動的抵抗者となることが出來る。
 この力と暴力の關係、從つてあらゆる壓制、あらゆる不正との關係は、恰度光と闇との關係のやうなものだ。政治上では、この力の使用は、統治は人民が統治されることを意識的若くは無意識的に承認して居る間にのみ可能であるといふ動かし難い公理に基礎を置く。吾々はトランスヴアールの千九百〇七年のアジア條例によつて統治されることを欲しなかつた。それだから、かの條例はこの偉力のために廢止されなければならなかつたのである。吾々の前に二つの道があつた――條例に服從を強ひられた時に暴力を用ひるか、或は、この條例の規定するところの刑罰を受け、かくして統治者即ち立法者の心に同情を起させるまで、吾々のうちにある力を振ひ起して、彼等にそれを見せつけるかである。吾々が努力して目的を達するまでには長日時を要した。それは、吾々の受動的抵抗が最も完全なものでなかつたからだ。
 すべての受動的抵抗者はこの精神力の十分な價値を理解しないし、又吾々男子は常に自己の信念によつて暴力を抑制しなかつた。この力を使用するには、いかにして食ひ、いかに着んかに無頓着であるといふ意味に於て、貧乏に甘んじなければならぬ。過般の爭鬪に於て、すべての受動的抵抗者は――多少の例外はあつたが――そこまで進む覺悟のある者はなかつた。或る者はただ名ばかりの受動的抵抗者であつた。彼等は何等の信念をも有たずにやつて來た。雜多な動機でやつて來た者が多く、それより數は尠いが、不純な動機を持つてゐた者もゐた。中には[#「中には」は底本では「中はに」]、鬪爭中、極く嚴重に監督してゐなかつたら、進んで暴力に訴へようとした者もゐた。爭鬪が長引いたのは、それがためであつた。何となれば、最も純粹な精神の力を不完全な形に於て用ひるならば、救ひは直ちに來るからである。この力を用ひるためには、各個人の精神的訓練を長い間行ふことが絶對に必要である。それによつて、完全な受動的抵抗者は殆んど――全くでないとしても――完全な人間になり得るのだ。吾々は一足飛びにさういふ人間になることは出來ないが、若し私の建言が正しいとすれば――私はそれを正しいと思つてゐるが――吾々の中にある受動的抵抗の精神が強ければ強いだけ、吾々は善い人間になれるのだ。それだから
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