ろが一度ある会で大変良い機嫌に酔われまして、といっても先生は酒は好きですが二本くらいですっかり酔払ってしまわれる良い酒でしたが、どう間違われてか、眼の前のタコをむしゃむしゃ食べてしまわれました。それを発見して私は非常に吃驚《びっくり》しましたが、そのことを翌日私の所へ見えられた折に話しをしましたら、先生はさすがに顔色を変えられて、「そういえば手巾にタコの疣《いぼ》がついていたから変だとは思ったが――」といってられるうちに、腹が痛くなって来たと家へ帰ってしまわれた。まさか昨晩のタコが今になって腹を痛くしたのではないのでしょうが、私はとんだことをいったものだと後悔しました。
またある時、先日なくなられた岡田三郎助さんの招待で、支那料理を御馳走になったことがありました。小さな丸い揚げ物が大変に美味しく、鏡花先生も相当召し上がられたのですが、後でそれが蛙《かえる》と聞いて先生はびっくりし、懐中から手ばなしたことのない宝丹を一袋全部、あわてて飲み下して、「とんだことをした」と、蒼《あお》くなっておられた時のことも今に忘れません。
好んで召し上がられたものは、野菜、豆腐、小魚などのよく煮たもの
前へ
次へ
全8ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小村 雪岱 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング