ノヨツバムグラ、テンナンショウ、ヒトリシズカ、ミツバベンケイソウ、ヒメジャゴケ、ウド、ザゼンソウ、ナンバンハコベ、ミヤマタニタデ、イワガネゼンマイなどである、この池から先きは、多少の斜面となっているので、その斜面を伝うて登れば先ず笹原である、笹原の次が雑木である、雑木の次がエゾマツとトドマツの密生している森林で、道は全く形もないのに傾斜はますます急である、一行はこの森林の中を非常な困難をして登ったのであるが、間もなく斜面が漸く緩になると同時に、森林が変じて笹原となって、終には谷に出ることが出来た。
 この谷には水もあるので、十二時に間もないから先ずこの辺で食事をしようということになったが、何分にも未だ利尻山の頂上も見ることが出来ないという有様であるから、一行も殆んど何の愉快を感ずることが出来なかったのである、加藤子爵が今では大事の盆栽としておられる、エゾマツの数本寄せ植の小さな鉢物は、この食事をした場所で岩の上に実生《みしょう》のかたまりがあったのを、木下君がいたずら半分に採られたのであったと思う、その当時はあんなに美事《みごと》の盆栽になろうとは思わなかったが、人の丹精というものは誠
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