て雲が多く、思うように山の形を見ることも出来なかったのでもあるし、幸いにして海上の波は穏かであったけれども、格別面白いこともなくして十時頃になったのであるが、幸いにも次第に晴天となったので、鬼脇に着する前からして、遥かに利尻山の尖《とが》りたる峰を眺むることが出来た、早上陸する前から一同は山ばかりを見て、あの辺がどうであろうとか、そうではあるまいとかの評定ばかりで、随分傍から見たら可笑《おかし》い位であったろうと思う、一行の泊った熊谷という宿屋は、この土地ではかなりの旅店で、殊《こと》に最初思ったよりは、この島が開けているので、格別不自由を感ずるほどのこともなかった。
 この日は何のなすこともなく、日を暮らすのも勿体ないという相談から、一同打連れて近傍の植物採集に出かけたのが、殆んど四時頃であったろうと思う、大泊村の海岸へ行《おもむ》いた、鴛泊から西の方に当って、おおよそ五、六丁位の所である、人家は格別沢山もないが、所々に漁業をなすものの家が幾軒ずつか散在している位である、その海岸に小さな岡があるので、その岡の上に登って見渡したところが、一帯に島の中央に向って高原的の地勢をなしている、
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