ワ花草としてよく人家の庭に栽えられてある宿根草であるが、もとより日本には野生はない。
 このイチハツは日本で名づけた俗名でありながら、今のところその語原が不明である。茎の頂に花が一つずつひらくから、それで一発の意味だとこじつけられないことはない。だがこのズドンと撃った一発は的をはずれ、それは無論勝ち星が得られないこと受け合いだろうが、また世間にはまぐれ当りということもある。
 方々を歩いてみると、往々このイチハツを藁屋根の棟に密に列植してあるのを見かけるが、その紫|葩《はな》を飜えす花時にはすこぶる風流な光景を見せている。吾らはこのイチハツがナゼそんなところに栽えてあるのか不審に思うのだが、しかしそれには理由がある。すなわちそれは強風で家の棟が取られないために屋脊を保護してあるのである。今ならトタン板を利用するところだが、昔日本には無論そんな気の利いた材料がなかったので、そこで天然物でこれをおおいイチハツの根でしっかりと押えつけたものであるところに面白味がある。今朝見れば夕べの風で棟が禿げ大事のイチハツどこへ風が飛ばしたか、その補充でこの家の主人思わん仕事がまた一つ殖えたわけだ。風め!
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