を泳ぎ回るのである。そして間もなく、これも自分の家で成年に達した娘の雌精器に触接し、握手結婚して一緒になり、ここにめでたく生育の基礎を建てるのである。すなわち許嫁の男子(雄)と女子(雌)とが初めて交会し、四海波静かにめでたく三三九度の御盃をすませる。
それは春から夏を過ぎて秋となり、その間長い月日の間何んの滞りもなく生長を続けてついに成長の期に達し、待たれた本望を遂げて千秋楽とはなったのである。そしてなお樹上にはその実が沢山に残っているから、そこでもここでも同じく華燭の盛典が挙げられめでたいことこの上もなく、許嫁の御夫婦万歳である。そのうちに右の実がいよいよ軟く黄熟し烈臭を帯びて地に落ち、葉もまた鮮やかな黄金色を呈して早くも結婚の終了を告げ欣々然として潔ぎよく散落し、間もなくその年は暮れるのである。そしてこの結婚をすませた実が地に落ちれば、来年はそこに萌出して新苗を作り子孫が繁殖するのである。
イチョウの黄葉は敢てほかの樹には望まれない美観なもので、遠くから眺めればその家、その寺、その村の目標ともなる。もしこの数千本を山に作って一山をイチョウ林にしたらば確かに壮観を呈するであろう。
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