キャッチするのである。じつに不思議なのは、遠くから極めて疎らに飛んで来る花粉が、よくもマア卵子頂のこの小さい孔を索《もと》めて飛びこんで来るもんだ。なんだか卵子に引力でもあって、その花粉を引きよせるのではないかとのように思わせられてならない。花粉が濛々たる煙のようにまた漠々たる雲のように飛んで来るのならイザ知らぬこと、一粒一粒極く稀薄に飛んで来て、よくも狙い誤またずにちょうどその小さい孔に飛びこむとは、じつに造化自然の妙に驚歎せざるを得ないのである。
さて春に、そこすなわち娘の家に飛びこんだこの花粉すなわち幼い男子はこの娘の家に引き取られて、そこに幾月もの間に段々と生育するのだが、それを養い育てるその娘の家すなわち卵子も、日を経るままに次第にその大きさを増しつつ時日を重ねるのである。そしてそうこうしている内に卵子もズット大きな実となり、初めは緑色であるのが秋風に誘われて、ようやく黄色に色着いて来る。サアこの時だ! その実の頂に近い内部に液の溜ったところが出来ていて、その液の中へ娘の家で成年に達した男の花粉嚢から精虫が二疋ずつ躍り出て来て、その精虫の体に具えている纎毛を動かしてその液中
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