てたことが発覚して捕えられ、後来の見せしめのためにその僧を生埋にしたところがあの場所で、そこへあの通り柳を植え、そして右のような事情ゆえその罪悪を示すためその柳の名も蛇柳と名づけたようだ」と語られた。
 右の有名なヤナギも今は既に枯死して、ただその名を後世に遺すのみとなった。上のような由来をもったヤナギであったのだから、その後継者として一株の柳樹を植えその跡を標したらどうだろう。

  無花果の果

 無花果《ムカカ》はイチジクである。これはもとより我が日本の産ではなく、寛永年中に初めて西南洋からの苗木を得て長崎に植えたといわれている。そして古人がこれを無花果と名づけたのは、その果はあるが外観いっこうに花らしいものが見えぬので、それで実際に花のないものだと思って無花果と書いたので、この無花果の字面は明《みん》の汪頴《おうえい》の『食物本草《しょくもつほんぞう》』に初めて出ている。そしてこの果はじつは擬果すなわち偽果であって、本当の果実でない事実は素人には分るまいが学者にはよく分っている。
 有名な学者の貝原益軒《かいばらえきけん》に従えば、イチジクとは元来イヌビワすなわちイタブ Fic
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