る片葉の葦は別に何物でもなく、ただ普通のアシそのものであることをここに公言する。そしてそれは単にその葉が一方から吹き来る風のイタズラで一方を指しているにすぎなく、畢竟この風さえなければ片葉ノ葦は出来っこがない。すなわちその葉が風に吹かれるとその風が葉面に当たってその葉を一方に押しやる。そうするとその長い葉鞘が綟《よ》れてこの葉がこんな姿勢をとるのである。風が東から来ればその葉は揃って西を指し、風が北から来れば同じくその葉は一様に南を指す。葉鞘が拗《ねじ》れるので直ぐには原位に復せずそのままになっている。ゆえにアシのあるところはいつでもどこでもこの片葉のアシが出現して何にも珍らしいことではない。単にこれが自然に出来るばかりでなく、いつでも人の手によってもそれをこしらえ得るのはやすやすたることである。
『紀伊国名所図会《きいのくにめいしょずえ》』二之巻海部郡の部(文化八年発行)に「片葉《かたは》の蘆《あし》 和歌津《わかつ》や村の北の入ぐちにあり是また蘆戸《あしべ》の遺跡也すべて川辺のあしは流につれて自然と片葉となるものあり又其性を受て芽いづるより片葉蘆と生ずるものもあらん此地もいにしへは
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