ナナス科ナス属に属し Solanum carolinense L[#「L」は斜体]. の学名を有する。アメリカ本国でも無論耕地の害草で、さぞ農夫が困りぬいているであろうことが想像せられる。そしてこの草の俗名は Horse−Nettle, Sand−Brier, Apple−of−Sodom, Radical−weed, Bull−nettle ならびに Tread softly である。
 ついでに、三里塚にはこれも北米原産の Rudbeckia hirta L[#「L」は斜体]. が沢山生えている。茎は立ち葉は披針形で毛がある。花季には黄色の菊花が競発する。まだ和名がないようだから、私は先きに黄金菊《コガネギク》の名をつけておいた。

  カナメゾツネ

 ヨタレソツネはナラムウヰノと続くイロハ四十七字中の字句であるが、このカナメゾツネはちっとも意味の分らん寝言みたいな変な名だ。これぞ明治の初年に東京は山手の四ツ谷辺で土地の人に呼ばれていた称呼で、それはアミガサタケの俗称である。そしてこの菌の学名は Morchella esculenta Fr[#「Fr」は斜体]. であって、その属名の Morchella はドイツ名の Morchel をジレニウスという学者が変更した名、種名の esculenta は食用トナルベキの意である。
 この編み笠を冠ぶった姿のアミガサタケはなにも珍らしいほどのものではなく、五月の季節が来れば方々に生える地上菌で、その形が奇抜なものである。そしてその色は生ま黄色い灰白色で、なんだか毒ナバ(毒菌の意)らしく見える。西洋では昔からこの菌の食用になることを知っていた。
 しかしこの菌が食えると聞いたら、普通の人はその姿から推してこれを怪訝に思うであろう。そしてよほど物好きな人でないかぎり多分食ってみる気にはならないであろう。が、かつて友人の恩田|経介《けいすけ》理学士は、同君の宅の庭に幾つか忽然と生え出たこの菌をうまいうまいと食べた一人であった。同君は次の年もやはり生えると楽しんでいたが、どういうもんか、それ以来ちっとも顔を見せないとこぼしていられた。多分これはキノコがまた食われては大変だと恐れをなして引っ込んだんだろう。そしてこれを味わうにはその菌体に塩を抹して焼いて食ってもよいといわれるが、私はまだ食わんからその味を知らない。私の庭にも一
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