ニいう意味)の学名を有し、釈迦がその下で説教したといわれる樹で、吾らはこれを印度菩提樹《インドボダイジュ》と呼んでいる。しかし元来はまさにこれを菩提樹といわねばならんのだが、贋ながらも上のように既に名を冒している次第だ。しかし今これを正しく改称するとしたら、インドの Ficus religiosa L[#「L」は斜体]. の方を菩提樹として本来の称呼を用い、贋の菩提樹の Tilia Miqueliana Maxim[#「Maxim」は斜体]. の方をシナノキボダイジュとして呼べばよろしく、本当はこうするのがリーズナブルだ。
インドボダイジュの実は形が小さくて円いけれど、元来が無花果的軟質の閉頭果であるから、もとより念珠にすべくもない。
菩提樹について『翻訳名義集《ほんやくめいぎしゅう》』によれば、この樹は一つに畢鉢羅《ヒッパツラ》樹と称する。仏がその下に坐して正覚を成等するによって、これを菩提樹というとある。またこの菩提樹は梵語ではピップラといい、ヒンドスタン等ではピッパル、ピパルあるいはピプルと呼ばれるとの事だ。
[#「ボダイジュ(贋の菩提樹)(Tillia Miqueliana Maxim[#「Maxim」は斜体].)原図、ただし果実ならびに花の図解剖諸事は白沢保美著『日本森林樹木図譜』による」のキャプション付きの図(fig46820_14.png)入る]
[#「菩提樹(Ficus religiosa L[#「L」は斜体].)インド産菩提樹の真品(いわゆるインドボダイジュ)」のキャプション付きの図(fig46820_15.png)入る]
小野蘭山先生の髑髏
この蘭山《らんざん》小野先生の髑髏の写真はじつに珍中の珍で容易に見ることの出来ないものである。ここに文化七年(1810)に物故せるこの偉人の髑髏を拝することを得たる事実は、この上もない幸運であるといえる。先生の幾多貴重な名著、殊に白眉の『本草綱目啓蒙《ほんぞうこうもくけいもう》』四十八巻のような有益な書物は、生前この髑髏の頭蓋骨内に宿った非凡な頭脳からほとばしり出た能力の結晶であることを想えば、今ここにこの影像に対してうたた敬虔の念が油然として湧き出づるのを禁じ得ない。私においてはもとよりであるが、併せて読者|諸彦《しょげん》に対しても同じくこの尊影に向って合掌せられんことを御願いする。
蘭
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