来栗は中国の産である、クリこそは日本にあるが栗は日本にはない。学名でいえば中国の栗は Castanea mollissima Blume[#「Blume」は斜体]=Castanea Bungeana[#「Castanea Bungeana」は斜体] Blume)であって Chinese Chestnut の俗名を有し、和名はシナグリ(支那グリ)一名アマクリ(甘クリ)であり、日本のクリは Castanea crenata Sieb[#「Sieb」は斜体]. et Zucc[#「et Zucc」は斜体]. であって Japanese Chestnut の俗名をもっている。そして中国の栗は同国の特産で日本には産せず、日本のクリは日本の特産で中国には産しない。だから中国の書物にある※[#「木+而」、第4水準2−14−58]栗または杭子を我がサヽグリにあて、茅栗を我がシバグリにあて、板栗を我がタンバグリにあて、山栗を我が中《チュウ》グリにあてるのはみな間違いで、これらはことごとく支那栗すなわち甘《アマ》クリの内の品種名たるにほかなく、断じて我が日本のクリに適用すべき名ではないことを銘記していなければならない。
 搗《カチ》グリというものがある。カチとは舂《つ》くことで、すなわちクリの実を干し搗いて皮を去りその中実《なかみ》(胚を伴うた子葉)を出したものである。それには普通にシバグリを用うる。シバグリとは柴グリの意で小さいクリである、すなわち上の三度グリなどはみなシバグリであり、三度グリならずとも野山のクリにはシバグリが多い。たとえその樹が高大になってもシバグリはやはりシバグリたることを失わない。これについて上の『本朝食鑑』栗の条下に次の如く書いてある。今分り易く原漢文を仮名交り文にする。「搗栗《ウチクリ》加知久利《カチクリ》ト訓ズ、熱栗ノ連殻ヲ取テ日日晒乾シ皺ムヲ待テ内チニテ鳴ル時、臼ニ搗テ紫殻及ビ内※[#「さんずい+(嗇/一)」、248−17]皮ヲ去ルトキハ、則チ外ハ黄皺、内ハ潔白ニシテ堅シ、其味ヒ極メテ甘シ、若シ軟食セント欲セバ則チ熱湯ニ浸シ及ビ熱灰ニ※[#「火+畏」、第3水準1−87−57]シテ軟キヲ待テ食シ以テ乾果ノ珍ト作ス、山栗ノ微小ナル者ヲ用テ之レヲ造ルモ亦佳ナリ、或ハ断肉蔬※[#「歹+(餐−殄)」、第4水準2−92−50]ノ時搗栗ヲ以テ鰹節ニ代フレバ能ク甜味ヲ生
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