れば、もしそこを保護してそのクリを伐らなかったならば、たちまちその三度グリたる現状態が見られなくなるからであった。そしてこんなクリはやはり野に置けでないとその天真を失ってしまうことになる。
右のような小木のクリを南京栗《ナンキングリ》というと伊藤|伊兵衛《いへい》の『地錦抄付録《ちきんしょうふろく》』に出ている。一体姿の小さいものを南京鼠のように南京と呼ばれる。三度栗も樹が小さいからそれでこの名がある。
上のいわゆる三度グリと同様のものは、春に山を焼く場所にはどこにも見られ、敢えて珍らしいものではない。私は先年肥後葦北郡水俣の山地でもこれを見たのだが、同地にも普通に多く生長して多数な毬彙《イガ》を着けていた。その中に特にその毬彙が紫色を呈したものがあって私の眼を惹いた。そこでそれを採集し、それにイガムラサキの新和名と Castanea crenata Sieb[#「Sieb」は斜体]. et Zucc[#「et Zucc」は斜体]. forma purpurea Makino[#「Makino」は斜体](Burs purple)の新学名をつけておいた。
三度グリについて小野|蘭山《らんざん》の『本草綱目啓蒙』巻之廿五、栗の条下に「マタ越後ニ三度グリアリ大和本草ニヤマグリト云[牧野いう、『大和本草』にこの名は見えない]石州ニテ カシハラグリト云|茅栗《ボウリツ》ノ類ニシテ年中ニ三度実ノルト云越後ノミナラズ石州予州土州上野下野ニモアリト云」と出ている。そしてこれらも元来はシバグリの内のものであって、このシバグリについては同書に「又シバグリアリ一名ササグリ(和名鈔)ヌカグリ[牧野いう、漢名|糠栗《コウリツ》に基づいての名だろう]モミヂグリ木高サ五六尺ニ過ズシテ叢生ス房彙《イガ》モ小ナリソノ中ニ一顆或ハ二三顆アリ形小ナレドモ味優レリ是茅栗ナリ」と書いてある。
貝原|益軒《えきけん》の『大和本草《やまとほんぞう》』巻之十、栗の文中には「※[#「木+而」、第4水準2−14−58]栗《ササグリ》サヽトハ小ナルヲ云小栗ナリ又シバクリト云爾雅ノ註ニ江東[#(デ)]呼[#(ブ)][#二]小栗[#(ヲ)][#一]為[#二]※[#「木+而」、第4水準2−14−58][#(ジ)]栗[#(ト)][#一]|崔禹錫《さいうしゅく》食経ニハ杭子ト云ヘリ春ノ初山ヲヤケバ栗ノ木モヤクル其春苗ヲ生
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