の※[#「くさかんむり/亭」、第4水準2−86−48]が枯れず、その梢部に緑葉ある芽を生ずる特性があるが、初めこの現象あるに気がついたので写真入りで、昭和四年(1929)四月十五日発行の『植物研究雑誌』第六巻第四号誌上にその事実を発表したのは久内清孝君で、同君はそれを相州葉山長者ヶ崎の小嶼《しょうしょ》で採集せられたのであった。そして私はこの種にハマカンゾウの新和名とともに Hemerocallis littorea Makino[#「Makino」は斜体] なる新学名をつけておいた。
 このハマカンゾウは一つの good species であり、また littoral plant である。広く太平洋、日本海の沿岸に分布して生じているから、中国でも四国でもまた九州でも常に瀕海の崖地で見られる。薩州|甑島《こしきじま》に生ずる萱草も多分このハマカンゾウにほかならないであろう。
 琉球ではハマカンゾウは自生していないが、しかしこれを圃隅に植えてその花を食用に供している。そして、これを塩漬にもし泡盛漬にもし、また汁の実にもするが、内地では一向それを利用していない。
 昭和十九年二月に、東京の桜井書店で発行になった吉井勇《よしいいさむ》氏の歌集『旅塵』に、佐渡の外海府での歌の中に「寂しやと海の上《うえ》より見て過ぎぬ断崖《だんがい》に咲く萱草《かんぞう》の花《はな》」というのがあるが、この歌の萱草は疑いもなくハマカンゾウを指しているのである。
 終りに、上のナンバンカンゾウそのものについて述べてみると、飯沼慾斎《いいぬまよくさい》の『草木図説《そうもくずせつ》』巻之六(文久元年辛酉1861)※[#「くさかんむり/(糸+爰)」、241−3]に草(通名)と出で、明治八年(1875)の同書新訂版にはワスレグサ萱草と出ているその植物は、けっして※[#「くさかんむり/(糸+爰)」、241−4]草でも萱草でもまたワスレグサでもなくて、これは宜しくナンバンカンゾウとせねば正しい名とはなりえないものである。慾斎氏はこれを Hemerocallis flava(羅)Geele Dagschoon(蘭)にあてているが、これは無論あたっていなく、そしてその正しい学名は Hemerocallis aurantiacus Baker[#「Baker」は斜体] である。本品は蓋し中国の原産で、我国へは
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