泣iネのツルモすなわち Chorda Filum Lamour[#「Lamour」は斜体]. を指していっているのであろうと信じている。
 このツルモという海藻は、世界で広く分布しているが、我が日本では南は九州から北は北海道にいたり、太平洋および日本海の両海岸で波の静かな湾内に生じ、その体は単一で痩せ長い円柱形をなし、その表面がぬるついており、砂あるいはやや泥質の海底に立って長さは三尺から一丈二尺ほどもあり、太さはおよそ一分弱から一分半余りもあって、粗大な糸の状を呈し、上部は漸次に細ってついに長く尖っている。地方によってはこれを食用に供している。そして体が極く細長いので、これを縄ノリとすれば最もよく適当している。このように他の海藻にくらべて特に痩せ長い形をしているので、海辺に住んでいた万葉人はよくこれを知っていたのであろう。ゆえに上のような歌にも詠み込まれたものだと察せられる。このように長い海藻でないとこの歌にはしっくりあわない。

  蓬とヨモギ

 源順《みなもとのしたごう》の『倭名類聚鈔《わみょうるいじゅしょう》』に蓬を与毛木(ヨモギ)としてあるのがそもそもの間違いで、それ以来今もって今日にいたるもなお人々がヨモギを蓬と書いて怪まないが、私はなんら怪まずにかく人々の頭を怪まずにはいられない。古えよりとんでもない間違いをしてくれたもんだ。
 ヨモギ(Artemisia vulgaris L[#「L」は斜体]. var. indica Maxim[#「Maxim」は斜体].)は艾《ガイ》と書くのが本当だ。元来これはモグサ(燃え草の省略せられたもので、横文字でも Moxa と書くのは面白い)に製する草であるが、今は多くヨモギの姉妹品であるヤマヨモギ(Artemisia vulgaris L[#「L」は斜体]. var. vulgatissima Bess[#「Bess」は斜体].)を用いている。これは形が普通のヨモギよりも大きく、日本中部から以北の山地には最も分量多く普通に生じているものだ。葉も大きいからモグサに製するのに量があってよろしい。モグサには葉の裏の綿毛が役立つ。
 またヨモギは誰もが知っている通り春の嫩葉《わかば》を採って餅へ搗きこみ、ヨモギ餅をこしらえる。色が緑でかつ香いがあってよい。そこで普通にこれをモチクサととなえる。
 蓬をヨモギとするのは前述の
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