サの葉片幅広く、基部は稈を抱いている特状があるので、容易に他の禾本と見別けがつく。そしてその葉形を小さい鮒に見立てて、それでこの禾本にコブナグサの名があるのである。
 古く深江輔仁《ふかえのすけひと》の『本草和名《ほんぞうわみょう》』には、このコブナグサを※[#「くさかんむり/盡」、第3水準1−91−34]草《ジンソウ》にあててその和名を加伊奈(カイナ)一名阿之為アシヰとしてあり、また源順《みなもとのしたごう》の『倭名類聚鈔《わみょうるいじゅしょう》』には同じく※[#「くさかんむり/盡」、第3水準1−91−34]草にあててその和名を加木奈(カキナ)[牧野いう、加木奈は蓋し加伊奈の誤ならん]一云阿之井(アシヰ)としてある。コブナグサは京都の名で、江州ではサゝモドキ、播磨、筑前ではカイナグサというとある。貝原益軒の『大和本草《やまとほんぞう》』諸品図の中にカイナ草の図があるが、ただ図ばかりで説はない。またこれにカリヤス(ススキ属のカリヤスと同名)の名もあるように書物に出ている。『本草綱目啓蒙《ほんぞうこうもくけいもう》』には※[#「くさかんむり/盡」、第3水準1−91−34]草の条下に「此茎葉ヲ煎ジ紙帛ヲ染レバ黄色トナル」と出ている。八丈島でもこれをカリヤスと呼んで染料にすると聞いたことがあった。
 我国の本草学者などは中国でいう※[#「くさかんむり/盡」、第3水準1−91−34]草をコブナグサに充てコブナグサの漢名としてこれを用いているが、これは誤りであって元来※[#「くさかんむり/盡」、第3水準1−91−34]草とはチョウセンガリヤス(Diplachne serotina Link[#「Link」は斜体]. var. chinensis Maxim[#「Maxim」は斜体].)の漢名である。そしてこの※[#「くさかんむり/盡」、第3水準1−91−34]草は彼の『詩経』にある「※[#「くさかんむり/碌のつくり」、第4水準2−86−27]竹猗々タリ」の※[#「くさかんむり/碌のつくり」、第4水準2−86−27]竹で、中国には普通に生じ一つに黄草とも呼んでいる。『本草綱目《ほんぞうこうもく》』※[#「くさかんむり/盡」、第3水準1−91−34]草の条下に李時珍のいうには「此草緑色ニシテ黄ヲ染ムベシ、故ニ黄ト曰ヒ緑ト曰フ也」とある。また梁の陶弘景《とうこうけい》註の『名医別
前へ 次へ
全181ページ中70ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 富太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング