である。
次は明治八、九年頃のことではなかったかと思っているが、私の佐川町で見た火の玉である。それは、まだ宵のうちであったが、町で遊んでいると町の人家と人家との間からこの火の玉が見えた。これは、光りのごく弱い大きなまるい玉で、淡い月を見るような火の玉であった。この火の玉は上からやや斜めにゆるやかに下りてきて地面に近くなったところで、ついに人家に遮られて見えなくなった。そこの町名は新町《しんちょう》で、その外側は東に向かい、それから稲田がつづいていた。
なお、四国には、陰火がよく現われるところとして知られている土地がある。それは、徳島県海部郡なる日和佐町の附近で、ここには一つの川があって、その川の辺には時々陰火が現われるという。陰火の研究にでかけてみると面白いところだと思われる。
底本:「日本の名随筆73 火」作品社
1988(昭和63)年11月25日第1刷発行
1992(平成4)年9月20日第6刷発行
底本の親本:「牧野富太郎選集 第一巻」東京美術
1970(昭和45)年4月発行
入力:門田裕志
校正:noriko saito
2007年12月19日作成
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