ばこれを油でいため、それへ味をつけて食膳に供する。昨年の秋箱根芦の湯の旅館紀伊の国屋でそうして味わわせてくれた。すこぶる風流な感じがした。
 今日でもそうかも知らんが、今からおよそ百年ほど前にはその実の皮を薬材として薬屋で売っていた。それは肉袋子という面白い名で。
[#あけびの図(fig47237_01.png)入る]
 そこで右のあけびの実だが、その実の形は短い瓜のようで、熟すると図に見るようにその厚い果皮が一方縦に開裂する。始めは少し開くが後にだんだんと広く開いてきて、大いに口を開ける。その口を開けたのに向かってじいっとこれを見つめていると、にいっとせねばならぬ感じが起こってくる。その形がいかにもウーメンのあれに似ている。その形の相似でだれもすぐそう感ずるものと見え、とっくの昔にこのものを山女とも山姫ともいったのだ。なお古くはこれを、※[#「くさかんむり/開」、85−15]と称した。すなわちその字を組立った開は女のあれを指したもので、今日でも国によるとあれをおかい又はおかいすと呼んでいる。これはたぶん古くからの言葉であろう。そしてこの植物は草である(じつは草ではなく蔓になっている灌
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