、そのためかえって、そのわずかな暇または偶然に与えられた機会に盗みをするように、かねて気にかかっていたつまらぬことがらを大事件らしくひねくりまわすことができると、その瞬間だけはひどく暇持ちになったような、はなはだのんびりした気持になる。むろんこれまた阿片の類にちがいない。
[#7字下げ]二[#「二」は中見出し]
さて、はじめておよそ太平洋を横断した蒸気船は北太平洋ではなく南太平洋の出来事だ。一八五三年まで、一隻の汽船も太平洋を渡っていない。だがこの年一千トンの推進汽船「モニュメンタル・シティ」号(米国船)がサン・フランシスコからシドニーへ渡った。
その所要日数七十五日は、立派な記録と評判されたが、彼女にこれ以上の記録を出す機会は与えられないでしまった。
というのも、この船は合衆国へ引返さず、シドニー・メルボルン航路に廻わされたのだが、その一カ月後、シドニー、メルボルン間の濠洲海岸で難破してしまったからである。
その年の六月ペリーの「黒船」が浦賀《うらが》へはじめて来ているが、これはそれまで日本へ来たすべての米国船と同様に大西洋からインド洋を経てきたものである。
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