んでしまったとは、かならずしもいえまい。
たとえばある文献に最初の横断太平洋定期就航船は一八六五年(慶応元)で船は米国の太平洋郵船会社の「コスタリカ」、「ニューヨーク」、「オレゴニアン」、「ゴールデン・エージ」のうちのどれかだ、と書いてある。
第二の文献には船名を挙げないで一八六七年にサンフランシスコから横浜に向ったとあり、第三の文献をみると、一八六七年の元旦にサンフランシスコを出て二十二日目に横浜に着いた「コロラド」がそれだとある。
こうなってくると、いったいどれが正しいのか確定したい、ということになってくる。
資料価値の検討、その他々々といろいろ試みるに従って、いつかしら定期航路といわず、およそはじめて太平洋を横断した船は何だ? というふうなことになって困るなと思いながら、そのくせ何とか納得がゆくまではいつまでもへんに頭の隅っこにこびりついてぬけない。いつのまにか問題の出発を忘れて、一見つまらないことに、それ自体のために、せんさくを試み出している。
考証趣味などいうものは、所詮《しょせん》暇人のものであり、暇人でないとできっこないはずだが、われわれのように暇をもたぬ人間は
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