た。
この推論中の重要な一要件として世界市場の完成、ことに横断太平洋汽船の開通を前提とするそれが置かれていた。
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「数年ならずして英蘭からチャグレスへ、チャグレスおよびサンフランシスコからシドニー、広東《カントン》およびシンガポールへ汽船の定期就航を見るに至るだろう」。
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おそらくは、カール・マルクスのカの字もマの字も――それとともに、彼が謳歌《おうか》した後年の日本資本主義のための最も呪《のろ》わしきいっさいのものを夢にも知らなかっただろうところの、タイクン政府通訳官福沢諭吉氏は、見らるるごとく慶応三年旧正月二十三日から三月十九日にわたって、十七年前のマルクスの予言がそのままの形で実現された新時代の一大交通網の上を「極楽世界」のごとき思いに酔いながら運ばれていったものであった。
底本:「黒船前後・志士と経済他十六篇」岩波文庫、岩波書店
1981(昭和56)年7月16日第1刷発行
底本の親本:「服部之総全集」福村出版
1973(昭和48)〜1975(昭和50)年
入力:ゆうき
校正:小林繁雄
2010年5月24日作成
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