ているが、太平洋以西はサンフランシスコまで北上したところで、スペイン人の修道館が一つボソリと立っているだけだ。
ダナが訪れた一八三五年のサンフランシスコは――
[#ここから1字下げ]
「投錨地の付近といわず、およそ湾岸全体、人影一つなかった……ふなべりを猛禽や渡鳥がかすめた。樫《かし》の森には野獣の列がゆききしていた。潮に乗ってしずかに湾頭を去らんとするとき、北岸の汀《みぎわ》に鹿がならんで、いぶかしそうに見送ってくれた」。
[#ここで字下げ終わり]
このカリフォルニアが米墨戦争でアメリカに帰してから三年目にあたる一八四八年の一月十日に、ジェームス・W・マーシャルという男が、新領土カリフォルニアのサン・ジョアキン・ヴァレイで、はじめて砂金を発見した。このニュースがニューヨークの新聞に出たのが、実に九月の十六日だというから、もってそれまでのカリフォルニアが、そして一般に太平洋岸がアメリカにとって何ものであったかが察せられるだろう。
だが一度金鉱発見の報が伝わると、事態はガラリと変ってしまった。電話で、アメリカじゅうに報告される。大統領ポークが十二月には正式に報告する。やがて、熱病的
前へ
次へ
全32ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
服部 之総 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング