げて、わッはッはと笑いこけた。
「あいつ、延喜《えんぎ》のいゝことをしてくれたもんだ。新年早々黄金饅頭を撒き込んでくれるなんざ、ふだん女郎の尻を撫でてるだけのことアある。――よし、今度京伝を訪ねる時にゃ、これをこのまゝ土産に持ってッてやるとしよう。だがあいつ、京伝の文句じゃねえが、下手な戯作の一つや二つ書いたからって、あんまり調子付くと、今に水瓶の中へ飛び込むぜ」
 若い馬琴はもう一度、盲目の蟋蟀のたとえを思い出して、大の字なりに寝ころんだまゝ、大きな笑い声を天井へ浴せかけた。



底本:「昭和のエンタテインメント50篇(上)」文春文庫、文芸春秋
   1989(平成元)年6月10日第1刷
底本の親本:「オール讀物 増刊号」文芸春秋
   1988(昭和63)年7月
入力:網迫、大野晋
校正:山本弘子
2008年5月21日作成
青空文庫作成ファイル:
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