」
「へえ」
「女はいって、え、いくつなんだ」
「二十四だとか、五だとかいっておりやした」
「二十四五か。そいつアおつ[#「おつ」に傍点]だの。男には年がねえが、女は何んでも三十までだ。さっきお前さんのいった北国五色墨《ほっこくごしきずみ》の若鶴という女も、ちょうど二十五だったからの、うッふッふ」
歌麿の胸には、若鶴の肌が張り附きでもしているような緊張した快感が大きな波を打っていた。大方《おおかた》河岸《かし》から一筋《ひとすじ》に来たのであろう。おもてには威勢のいい鰯売《いわしうり》が、江戸中へ響《ひび》けとばかり、洗ったような声を振り立てていた。
二
今まで五重塔の九輪《くりん》に、最後の光を残していた夕陽が、いつの間にやら消え失せてしまうと、あれほど人の行《ゆ》き来《き》に賑《にぎ》わってた浅草も、たちまち木《こ》の下闇《したやみ》の底気味悪いばかりに陰を濃《こ》くして、襟を吹く秋風のみが、いたずらに冷々《ひえびえ》と肌《はだ》を撫《な》でて行った。
燃えるような眸《まなざし》で、馬道裏《うまみちうら》の、路地の角に在《あ》る柳の下に佇《た》ったのは、丈
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