というだけの話じゃねえか」
「冗談《じょうだん》いっちゃいけません。いくら何んだって師匠が陰女なんぞと。……」
「あッはッは。つまらねえ遠慮はいらねえよ。こっちが何様じゃあるめえし、陰女に会おうがどぶ女郎に会おうが、ちっとだって、驚くこたアありゃしねえ」
「それアそういやそんなもんだが、あんな女と会いなすったところで、何ひとつ、足《た》しになりゃアしやせんぜ」
「足しになろうがなるめえがいいやな。おいらはただ、お前の敵《かたき》を討ってやりさえすりゃ、それだけで本望《ほんもう》なんだ」
「あっしの敵を討ちなさる。――冗《じょ》、冗談いっちゃいけません。昔の師匠ならいざ知らず、いくら達者でも、いまどきあの女を、師匠がこなす[#「こなす」に傍点]なんてことが。――」
「勝負にゃならねえというんだの」
「お気の毒だが、まずなりやすまい」
「亀さん」
歌麿は昂然《こうぜん》として居ずまいを正した。
「へえ」
「何んでもいいから石町《こくちょう》の六《む》つを聞いたら、もう一度ここへ来てくんねえ。勝負にならねえといわれたんじゃ歌麿の名折《なおれ》だ。飽くまでその陰女に会って、お前の敵を討たにゃ
前へ
次へ
全29ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
邦枝 完二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング