》を流《なが》し目《め》に、呉絽《ごろ》の帯《おび》に手《て》をかけると、廻《まわ》り燈籠《どうろう》の絵《え》よりも速《はや》く、きりりと廻《まわ》ったただずまい、器用《きよう》に帯《おび》から脱《ぬ》け出《だ》して、さてもう一|廻《まわ》り、ゆるりと廻《まわ》った爪先《つまさき》を縁《えん》に停《とど》めたその刹那《せつな》、俄《にわか》に音《ね》を張《は》る鈴虫《すずむし》に、浴衣《ゆかた》を肩《かた》から滑《すべ》らせたまま、半身《はんしん》を縁先《えんさき》へ乗《の》りだした。
「南無《なむ》大願成就《だいがんじょうじゅ》。――」
「叱《し》ッ」
あとには再《ふたた》び虫《むし》の声《こえ》。
京師《けいし》の、花《はな》を翳《かざ》して過《すご》す上臈《じょうろう》達《たち》はいざ知《し》らず、天下《てんか》の大将軍《だいしょうぐん》が鎮座《ちんざ》する江戸《えど》八百八|町《ちょう》なら、上《うえ》は大名《だいみょう》の姫君《ひめぎみ》から、下《した》は歌舞《うたまい》の菩薩《ぼさつ》にたとえられる、よろず吉原《よしわら》千の遊女《ゆうじょ》をすぐっても、二人《ふたり
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