ぞたわけが違《ちが》って、滅多矢鱈《めったやたら》に集《あつ》まる代物《しろもの》じゃァねえんだ。数《かず》にしたら何万本《なんまんぼん》。しかも一|本《ぽん》ずつがみんな違《ちが》った、若《わか》い女《おんな》の髪《かみ》の毛《け》だ。――その中《なか》へ黙《だま》って顔《かお》を埋《う》めて見《み》ねえ。一人一人《ひとりひとり》の違《ちが》った女《おんな》の声《こえ》が、代《かわ》り代《がわ》りに聞《きこ》えて来《き》る。この世《よ》ながらの極楽《ごくらく》だ。上《うえ》はお大名《だいみょう》のお姫様《ひめさま》から、下《した》は橋《はし》の下《した》の乞食《こじき》まで、十五から三十までの女《おんな》と名《な》のつく女《おんな》の髪《かみ》は、ひと筋《すじ》残《のこ》らずはいってるんだぜ。――どうだ松《まつ》つぁん。おいらァ、この道《みち》へかけちゃ、江戸《えど》はおろか、蝦夷《えぞ》長崎《ながさき》の果《はて》へ行《い》っても、ひけは取《と》らねえだけの自慢《じまん》があるんだ。見《み》ねえ、髪《かみ》の毛《け》はこの通《とお》り、一|本《ぽん》残《のこ》らず生《い》きてるんだ
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