抱《しんぼう》しますとも、夜中《よなか》ンなろうが、夜《よ》が明《あ》けようが、ここは滅多《めった》に動《うご》くンじゃないけれど、お前《まえ》がもしか門違《かどちが》いで、おせんの家《うち》でもない人《ひと》の……」
「そ、それがいけねえというんで。……いくらあっしが酔狂《すいきょう》でも、若旦那《わかだんな》を知《し》らねえ家《いえ》の垣根《かきね》まで、引《ひ》っ張《ぱ》って来《く》る筈《はず》ァありませんや。松《まつ》五|郎《ろう》自慢《じまん》の案内役《あんないやく》、こいつばかりゃ、たとえ江戸《えど》がどんなに広《ひろ》くッても――」
「叱《し》ッ」
「うッ」
 帯《おび》ははやりの呉絽《ごろ》であろう。引《ひ》ッかけに、きりりと結《むす》んだ立姿《たちすがた》、滝縞《たきじま》の浴衣《ゆかた》が、いっそ背丈《せたけ》をすっきり見《み》せて、颯《さっ》と簾《すだれ》の片陰《かたかげ》から縁先《えんさき》へ浮《う》き出《で》た十八|娘《むすめ》。ぽつんと一|本《ぽん》咲《さ》き初《はじ》めた、桔梗《ききょう》の花《はな》のそれにも増《ま》して、露《つゆ》は紅《べに》より濃《こ
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