と仰《おっ》しゃいました。当時《とうじ》、江戸《えど》の三|人女《にんおんな》の随《ずい》一と名《な》を取《と》った、おせんの肌《はだ》が見《み》られるなら、蚊《か》に食《く》われようが、虫《むし》に刺《さ》されようが、少《すこ》しも厭《いと》うことじゃァない、好《す》きな煙草《たばこ》も慎《つつし》むし、声《こえ》も滅多《めった》に出《だ》すまいから、何《な》んでもかんでもこれから直《す》ぐに連《つ》れて行《い》け。その換《かわ》りお礼《れい》は二|分《ぶ》まではずもうし、羽織《はおり》もお前《まえ》に進呈《しんてい》すると、これこの通《とお》りお羽織《はおり》まで下《くだ》すったんじゃござんせんか。それだのに、まだほんの、半時《はんとき》経《た》つか経《た》たないうちから、そんな我儘《わがまま》をおいいなさるんじゃ、お約束《やくそく》が違《ちが》いやす。頂戴物《ちょうだいもの》は、みんなお返《かえ》しいたしやすから、どうか松《まつ》五|郎《ろう》に、お暇《ひま》をおくんなさいやして。……」
「おっとお待《ま》ち。あたしゃ何《なに》も、辛抱《しんぼう》しないたいやァしないよ。ええ、辛
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