横《よこ》には向《む》けられなかった。

    二

「おたき」
「え」
「隣《となり》じゃまた、いつもの病《やまい》が始《はじ》まったらしいぜ。何《なに》しろあの匂《におい》じゃ、臭《くさ》くッてたまらねえな」
「ほんとうに、何《な》んて因果《いんが》な人《ひと》なんだろうね。顔《かお》を見《み》りゃ、十|人《にん》なみの男前《おとこまえ》だし絵《え》も上手《じょうず》だって話《はなし》だけど、してることは、まるッきり並《なみ》の人間《にんげん》と変《かわ》ってるんだからね」
「おめえ。ちょいと隣《となり》へ行《い》って来《き》ねえ」
「何《なに》しにさ」
「夜《よる》のこたァ、こっちが寝《ね》てるうちだから、何《なに》をしても構《かま》わねえが、お天道様《てんとうさま》が、上《あが》ったら、その匂《におい》だけに止《や》めてもらいてえッてよ。仕事《しごと》に行《い》ったって、えたいの知《し》れぬ匂《におい》が、半纏《はんてん》にまでしみ込《こ》んでるんで、外聞《げえぶん》が悪《わる》くッて仕様《しよう》がありやァしねえ」
「女《おんな》じゃ駄目《だめ》だよ。お前《まえ》さん行《い
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