《まえ》さん、どうでも家《うち》へ帰《かえ》りたいと駄々《だだ》をこねて、とうとうあんな塩梅式《あんばいしき》に、お医者《いしゃ》と見《み》せて帰《かえ》る途中《とちゅう》だッてことさ」
「おやまァ、そんならそこを退《ど》いとくれよ」
「なぜ」
「あたしゃ駕籠《かご》の傍《そば》へ行《い》って、せめて太夫《たゆう》さんに、一|言《こと》でもお見舞《みまい》がいいたいンだから。……」
「何《なに》をいうのさ。太夫《たゆう》は大病人《だいびょうにん》なんだよ。ちっとだッて騒《さわ》いだりしちゃァ、体《からだ》に障《さわ》らァね。一|緒《しょ》について行《ゆ》くなァいいが、こッから先《さき》へは出《で》ちゃならねえよ」
「いいから退《ど》いとくれッたら」
「おや痛《いた》い、抓《つね》らなくッてもいいじゃないか」
「退《ど》かないからさ」
「おや、また抓《つね》ったね」
 髪結《かみゆい》のお辰《たつ》と、豆腐屋《とうふや》の娘《むすめ》のお亀《かめ》とが、いいのいけないのと争《あらそ》っているうちに、駕籠《かご》は更《さら》に多《おお》くの人数《にんず》に取巻《とりま》かれながら、芳町通《
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