よごと》に焚《た》きこめた伽羅《きゃら》の香《かお》りが悲《かな》しく籠《こも》って、静《しず》かに部屋《へや》の中《なか》を流《なが》れそめた。
「ああ。――」
おせんはその帯《おび》を、ずッと胸《むね》に抱《だ》きしめた。
「おせんや」
お岸《きし》は優《やさ》し眼《め》をふせた。
「あい」
「おまえ、一人《ひとり》で行《い》く気《き》かえ」
「あい」
衣装《いしょう》を脱《ぬ》がせて、襦袢《じゅばん》を脱《ぬ》がせて、屏風《びょうぶ》のかげへ這入《はい》ったおせんは、素速《すばや》くおのが着物《きもの》と着換《きか》えた。と、この時《とき》格子戸《こうしど》の外《そと》から降《ふ》って湧《わ》いたように、男《おとこ》の声《こえ》が大《おお》きく聞《きこ》えた。
「おせんさん、仮名床《かなどこ》の伝吉《でんきち》でござんす。浜村屋《はまむらや》の太夫《たゆう》さんが、急病《きゅうびょう》と聞《き》いて、何《なに》より先《さき》にお知《し》らせしてえと、駕籠《かご》を飛《と》ばしてやってめえりやした。笠森様《かさもりさま》においでがねえんでこっちへ廻《まわ》って来《き》やした始
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