り》に気《き》を配《くば》りながら、胸《むね》一|杯《ぱい》に抱《かか》え出《だ》したのは、つい三日前《みっかまえ》の夜《よる》、由斎《ゆうさい》の許《もと》から駕籠《かご》に乗《の》せて届《とど》けてよこした、八百|屋《や》お七の舞台姿《ぶたいすがた》をそのままの、瀬川菊之丞《せがわきくのじょう》の生人形《いきにんぎょう》であった。
おせんは抱《かか》えた人形《にんぎょう》を、東《ひがし》に向《む》けて座敷《ざしき》のまん中《なか》に立《た》てると、薄月《うすづき》の光《ひかり》を、まともに受《う》けさせようがためであろう。音《おと》せぬ程《ほど》に、窓《まど》の障子《しょうじ》を徐《しずか》に開《あ》け始《はじ》めた。
庭《にわ》には虫《むし》の声《こえ》もなく、遠《とお》くの空《そら》を渡《わた》る雁《かり》のおとずれがうつろのように、耳《みみ》に響《ひび》いた。
「吉《きち》ちゃん。――いいえ、太夫《たゆう》、あたしゃ会《あ》いとうござんした」
生《い》きた相手《あいて》にいう如《ごと》く、如何《いか》にもなつかしそうに、人形《にんぎょう》を仰《あお》いだおせんの眼《め》
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