》やら分《わか》らないままに、おせんの頼《たの》みを堅《かた》く守《まも》って、お岸《きし》は、鬼門《きもん》へ触《さわ》るように恐《おそ》れていた座敷《ざしき》だったが、留守《るす》に誰《だれ》かが這入《はい》ったと聞《き》いては、流石《さすが》にあわてずにいられなかったらしく、拵《こし》らえかけの蜆汁《しじみじる》を、七|厘《りん》へ懸《か》けッ放《ぱな》しにしたまま、片眼《かため》でいきなり窺《のぞ》き込《こ》んだのであろう。
 部屋《へや》の中《なか》は、窓《まど》から差《さ》すほのかな月《つき》の光《ひかり》で、漸《ようや》く物《もの》のけじめがつきはするものの、ともすれば、入《い》れ換《か》えたばかりの青畳《あおだたみ》の上《うえ》にさえ、暗《くら》い影《かげ》が斜《なな》めに曳《ひ》かれて、じっと見詰《みつ》めている眼先《めさき》は、海《うみ》のように深《ふか》かった。
 母《はは》は直《す》ぐに勝手《かって》へ取《と》って返《かえ》したと見《み》えて、再《ふたた》び七|厘《りん》の下《した》を煽《あお》ぐ渋団扇《しぶうちわ》の音《おと》が乱《みだ》れた。
 暗《くら》い
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