の来《こ》ぬ間《ま》に、早《はや》くも弱《よわ》り果《は》てた蟋蟀《こおろぎ》であろう。床下《ゆかした》にあえぐ音《ね》が細々《ほそぼそ》と聞《き》かれた。

  月《つき》


    一

「――そら来《き》た来《き》なんせ、土平《どへい》の飴《あめ》じゃ。大人《おとな》も子供《こども》も銭《ぜに》持《も》っておいで。当時《とうじ》名代《なだい》の土平《どへい》の飴《あめ》じゃ。味《あじ》がよくってで[#「で」に傍点]があって、おまけに肌理《きめ》が細《こま》こうて、笠森《かさもり》おせんの羽《は》二|重肌《えはだ》を、紅《べに》で染《そ》めたような綺麗《きれい》な飴《あめ》じゃ。買《か》って往《ゆ》かんせ、食《た》べなんせ。天竺渡来《てんじくとらい》の人参飴《にんじんあめ》じゃ。何《な》んと皆《みな》の衆《しゅう》合点《がってん》か」
 もはや陽《ひ》が落ちて、空《そら》には月《つき》さえ懸《かか》っていた。その夕月《ゆうづき》の光《ひかり》の下《した》に、おのが淡《あわ》い影《かげ》を踏《ふ》みながら、言葉《ことば》のあやも面白《おもしろ》おかしく、舞《ま》いつ踊《おど》りつ来
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