つ》ァ、みんなけだもの[#「けだもの」に傍点]でげさァね」
「そうとも」
 柳原《やなぎはら》の土手《どて》を左《ひだり》に折《お》れて、駕籠《かご》はやがて三|河町《かわちょう》の、大銀杏《おおいちょう》の下《した》へと差《さ》しかかっていた。
 夜《よ》は正《まさ》に四つだった。

    三

 白壁町《しろかべちょう》の春信《はるのぶ》の住居《すまい》では、今《いま》しも春信《はるのぶ》が彫師《ほりし》の松《まつ》五|郎《ろう》を相手《あいて》に、今度《こんど》鶴仙堂《かくせんどう》から板《いた》おろしをする「鷺娘《さぎむすめ》」の下絵《したえ》を前《まえ》にして、頻《しき》りに色合《いろあわ》せの相談中《そうだんちゅう》であったが、そこへひょっこり顔《かお》を出《だ》した弟子《でし》の藤吉《とうきち》は、団栗眼《どんぐりまなこ》を一層《いっそう》まるくしながら、二三|度《ど》続《つづ》けさまに顎《あご》をしゃくった。
「お師匠《ししょう》さん、お客《きゃく》でござんす」
「どなたかおいでなすった」
「堺屋《さかいや》さんの、お上《かみ》さんがお見《み》えなんで」
「なに、堺屋
前へ 次へ
全263ページ中146ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
邦枝 完二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング