さ》えた袂《たもと》を振《ふ》り払《はら》って、おせんが体《からだ》をひねったその刹那《せつな》、ひょいと徳太郎《とくたろう》の手首《てくび》をつかんで、にやり笑《わら》ったのは、傘《かさ》もささずに、頭《あたま》から桐油《とうゆ》を被《かぶ》った彫師《ほりし》の松《まつ》五|郎《ろう》だった。
「若旦那《わかだんな》、殺生《せっしょう》でげすぜ」
「ええ、うるさい。余計《よけい》な邪間《じゃま》だてをしないで、引《ひ》ッ込《こ》んでおくれ」
「はははは。邪間《じゃま》だてするわけじゃござんせんが、御覧《ごらん》なせえやし。おせんちゃんは、こんなにいやだといってるじゃござんせんか。若旦那《わかだんな》、色男《いろおとこ》の顔《かお》がつぶれやすぜ」
 過日《かじつ》の敵《かたき》を討《う》ったつもりなのであろう。松《まつ》五|郎《ろう》はこういって、髯《ひげ》あとの青《あお》い顎《あご》を、ぐっと徳太郎《とくたろう》の方《ほう》へ突《つ》きだした。

    六

「はッはッは。若旦那《わかだんな》、そいつァ御無理《ごむり》でげすよ。おせんは名代《なだい》の親孝行《おやこうこう》、薬《
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