しゃァお前《まえ》さんから、この人形《にんぎょう》を請合《うけあ》う時《とき》、どんな約束《やくそく》をしたかはっきり覚《おぼ》えていなさろう。――のうおせんちゃん。あの時《とき》お前《まえ》は何《な》んといいなすった。あたしゃ死《し》んでる人形《にんぎょう》は欲《ほ》しくない。生《い》きた、魂《たましい》のこもった人形《にんぎょう》をこさえておくんなさるなら、どんな辛抱《しんぼう》でもすると、あれ程《ほど》堅《かた》く約束《やくそく》をしたじゃァねえか。――江戸《えど》一|番《ばん》の女形《おやま》、瀬川菊之丞《せがわきくのじょう》の生人形《いきにんぎょう》を、舞台《ぶたい》のままに彫《ほ》ろうッてんだ。なまやさしい業《わざ》じゃァねえなァ知《し》れている。あっしもきょうまで、これぞと思《おも》った人形《にんぎょう》を、七つや十はこさえて来《き》たが、これさえ仕上《しあ》げりゃ、死《し》んでもいいと思《おも》った程《ほど》、精魂《せいこん》を打《うち》込《こ》んだ作《さく》はしたこたァなかった。だが、今度《こんど》の仕事《しごと》ばかりァそうじゃァねえ。この生人形《いきにんぎょう》さ
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