おせん
邦枝完二

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)虫《むし》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)二|丁《ちょう》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「やまいだれ+票」、第3水準1−88−55]
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  虫《むし》


    一

「おッとッとッと。そう乗《のり》出《だ》しちゃいけない。垣根《かきね》がやわ[#「やわ」に傍点]だ。落着《おちつ》いたり、落着《おちつ》いたり」
「ふふふ。あわててるな若旦那《わかだんな》、あっしよりお前《まえ》さんでげしょう」
「叱《し》ッ、静《しず》かに。――」
「こいつァまるであべこべだ。どっちが宰領《さいりょう》だかわかりゃァしねえ」
 が、それでも互《たがい》の声《こえ》は、ひそやかに触《ふ》れ合《あ》う草《くさ》の草《は》ずれよりも低《ひく》かった。
「まだかの」
「まだでげすよ」
「じれッてえのう、向《むこ》う臑《ずね》を蚊《か》が食《く》いやす」
「御辛抱《ごしんぼう》、御辛抱《
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