者《いしゃ》の見舞《みまい》としか想《おも》われなかった駕籠《かご》の周囲《まわり》は、いつの間《ま》にやら五|人《にん》十|人《にん》の男女《だんじょ》で、百|万遍《まんべん》のように取囲《とりかこ》んで、追《お》えば追《お》う程《ほど》、その数《かず》は増《ま》して来《く》るばかりであった。
「ちょいとお前《まえ》さん、何《な》んだってあんなお医者《いしゃ》の駕籠《かご》に、くッついて歩《ある》いているのさ」
「なんだ神田《かんだ》の、明神様《みょうじんさま》の石《いし》の鳥居《とりい》じゃないが、お前《まえ》さんもき[#「き」に傍点]がなさ過《す》ぎるよ。ありゃァただのお医者様《おいしゃさま》の駕籠《かご》じゃないよ」
「だってお辰《たっ》つぁん、どう見《み》たって。……」
「叱《し》ッ、静《しず》かにおしなね。あン中《なか》にゃ、浜村屋《はまむらや》の太夫《たゆう》さんが乗《の》ってるんだよ」
「浜村屋《はまむらや》の太夫《たゆう》さん。――」
「そうさ。きのう舞台《ぶたい》で倒《たお》れたまま、今《いま》が今《いま》まで、楽屋《がくや》で寝《ね》てえたんじゃないか。それをお前《まえ》さん、どうでも家《うち》へ帰《かえ》りたいと駄々《だだ》をこねて、とうとうあんな塩梅式《あんばいしき》に、お医者《いしゃ》と見《み》せて帰《かえ》る途中《とちゅう》だッてことさ」
「おやまァ、そんならそこを退《ど》いとくれよ」
「なぜ」
「あたしゃ駕籠《かご》の傍《そば》へ行《い》って、せめて太夫《たゆう》さんに、一|言《こと》でもお見舞《みまい》がいいたいンだから。……」
「何《なに》をいうのさ。太夫《たゆう》は大病人《だいびょうにん》なんだよ。ちっとだッて騒《さわ》いだりしちゃァ、体《からだ》に障《さわ》らァね。一|緒《しょ》について行《ゆ》くなァいいが、こッから先《さき》へは出《で》ちゃならねえよ」
「いいから退《ど》いとくれッたら」
「おや痛《いた》い、抓《つね》らなくッてもいいじゃないか」
「退《ど》かないからさ」
「おや、また抓《つね》ったね」
髪結《かみゆい》のお辰《たつ》と、豆腐屋《とうふや》の娘《むすめ》のお亀《かめ》とが、いいのいけないのと争《あらそ》っているうちに、駕籠《かご》は更《さら》に多《おお》くの人数《にんず》に取巻《とりま》かれながら、芳町通《
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