と》び込《こ》んだ神田《かんだ》の湯屋《ゆや》で、傘屋《かさや》の金蔵《きんぞう》とかいう奴《やつ》が、てめえのことのように、自慢《じまん》らしく、みんなに話《はな》して聞《き》かせてたんだ」
「あいつ、もうそんな余計《よけい》なことを喋《しゃべ》りゃがったかい」
「喋《しゃべ》ったの、喋《しゃべ》らねえの段《だん》じゃねえや。紙屋《かみや》の若旦那《わかだんな》をまるめ込《こ》んで。――」
下総武蔵《しもふさむさし》の国境《くにざかい》だという、両国橋《りょうごくばし》のまん中《なか》で、ぼんやり橋桁《はしげた》にもたれたまま、薄汚《うすぎたな》い婆《ばあ》さんが一|匹《ぴき》五|文《もん》で売《う》っている、放《はな》し亀《かめ》の首《くび》の動《うご》きを見詰《みつ》めていた千|吉《きち》は、通《とお》りがかりの細川《ほそかわ》の厩中間《うまやちゅうげん》竹《たけ》五|郎《ろう》に、ぽんと背中《せなか》をたたかれて、立《た》て続《つづ》けに聞《き》かされたのが、柳湯《やなぎゆ》で、金蔵《きんぞう》がしゃべったという、橘屋《たちばなや》の一|件《けん》であった。
が、もう一|度《ど》竹《たけ》五|郎《ろう》が、鼻《はな》の頭《あたま》を引《ひ》ッこすって、ニヤリと笑《わら》ったその刹那《せつな》、向《むこ》うから来《き》かかった、八|丁堀《ちょうぼり》の与力《よりき》井上藤吉《いのうえとうきち》の用《よう》を聞《き》いている鬼《おに》七を認《みと》めた千|吉《きち》は、素速《すばや》く相手《あいて》を眼《め》で制《せい》した。
「叱《し》ッ。いけねえ。行《い》っちめえねえ」
「合点《がってん》だ」
するりと抜《ぬ》けるようにして、竹《たけ》五|郎《ろう》が行《い》ってしまうと、はやくも鬼《おに》七は、千|吉《きち》の眼《め》の前《まえ》に迫《せま》っていた。
「千|吉《きち》。おめえ、こんなとこで、何《なに》をうろうろしてるんだ」
「へえ。きょうは親父《おやじ》の、墓詣《はかめえ》りにめえりやした。その帰《けえ》りがけでござんして。……」
「墓詣《はかまい》り」
「へえ」
「いつッから、そんな心《こころ》がけになったんだ」
「どうか御勘弁《ごかんべん》を」
「勘弁《かんべん》はいいが、――丁度《ちょうど》いい所《ところ》でおめえに遭《あ》った。ちっとばかり
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