「お前《まえ》は道端《みちばた》じゃ見《み》せられないというから、わざわざ駕籠《かご》を急《いそ》がせて、ここまで来《き》たんだよ。さ大事《だいじ》な文《ふみ》を、少《すこ》しでも速《はや》く見《み》せてもらいましょう」
「お見《み》せいたしやす」
「口《くち》ばっかりでなく、速《はや》くお出《だ》しッたら」
「出《だ》しやす。――が、ちょいとお待《ま》ちなすっておくんなさい。その前《まえ》に、あっしゃァ若旦那《わかだんな》に、ひとつお願《ねが》い申《もう》してえことがござんすので。……」
「何《な》んだえ、あらたまって。――」
「実《じつ》ァその、おせんの奴《やつ》から。……」
「なに、おせんから、あたしに頼《たの》みとの」
「へえ」
「そんならなぜ、もっと早《はや》くいわないのさ」
「申上《もうしあ》げたいのは山々《やまやま》でござんすが、ちと厚《あつ》かましい筋《すじ》だもんでげすから、ついその、あっしの口《くち》からも、申上《もうしあ》げにくかったような訳《わけ》でげして」
「馬鹿《ばか》な。つまらない遠慮《えんりょ》なんか、水臭《みずくさ》いじゃないか。そんな遠慮《えんりょ》はいらないから、いっとくれ。あたしでかなうことなら、どんな願《ねが》いでも、きっと聞《き》いてあげようから。……」
「そりゃどうも。おせんに聞《き》かしてやりましたら、どれ程《ほど》喜《よろこ》ぶか知《し》れやァしません。――ところで若旦那《わかだんな》」
「なにさ」
「そのお願《ねが》いと申《もう》しますのは」
「その頼《たの》みとは」
「お金《かね》を。――」
「何《な》んのことかと思《おも》ったら、お金《かね》かい。憚《はばか》りながら、あたしァ江戸《えど》でも人様《ひとさま》に知《し》られた、橘屋《たちばなや》の徳太郎《とくたろう》、おせんの頼《たの》みとあれば、決《けっ》していやとはいわないから、かまわずにいって御覧《ごらん》。たとえどれ程《ほど》の大金《たいきん》でも、あれのためなら、首《くび》は横《よこ》にゃ振《ふ》らないつもりだよ」
「へえへえ、どうも恐《おそれ》れいりやした。いやもう、おせん、おめえよく捕《と》ったぞ。これ程《ほど》の鼠《ねずみ》たァ、まさか思《おも》っちゃ。……」
「これ千|吉《きち》つぁん、何《なに》をおいいだ。あたしのことを鼠《ねずみ》とは。…
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