抱《しんぼう》が出来《でき》なくなったばっかりに、ここまで出向《でむ》いて来《き》た始末《しまつ》さ。そうと極《きま》ったら、どうか直《す》ぐに色《いろ》よい返事《へんじ》を聞《き》かせておくれ」
「ま、ま、待《ま》っておくんなせえやし。そんなにお急《せき》ンならねえでも、おせんの返事《へんじ》は、直《す》ぐさまお聞《き》かせ申《もう》しやすが、ここは道端《みちばた》、誰《だれ》に見《み》られねえとも限《かぎ》りやせん。筋《すじ》の通《とお》ったいい所《ところ》で、ゆっくりお目《め》にかけようじゃござんせんか」
「そりゃもう、いずれおまんま[#「おまんま」に傍点]でも食《た》べながら、ゆっくり見《み》せてもらおうが、まず文《ふみ》の上書《うわがき》だけでも、ここでちょいと、のぞかせておくれでないか」
「御安心《ごあんしん》くださいまし。上書《うわがき》なんざ二の次《つぎ》三の次《つぎ》、中味《なかみ》から封《ふう》じ目《め》まで、おせんの手《て》に相違《そうい》はございません。あいつァ七八つの時分《じぶん》から、手習《てならい》ッ子《こ》の仲間《なかま》でも、一といって二と下《さが》ったことのねえ手筋自慢《てすじじまん》。あっしゃァ質屋《しちや》の質《しち》の字《じ》と、万金丹《まんきんたん》の丹《たん》の字《じ》だけしきゃ書《か》けやせんが、おせんは若旦那《わかだんな》のお名前《なまえ》まで、ちゃァんと四|角《かく》い字《じ》で書《か》けようという、水茶屋女《みずぢゃやおんな》にゃ惜《お》しいくらいの立派《りっぱ》な手書《てが》き。――この通《とお》り、あっしがふところに預《あず》かっておりやすから、どうか親船《おやぶね》に乗《の》った気《き》で、おいでなすっておくんなせえやし」
「安心《あんしん》はしているけれど、ちっとも速《はや》く見《み》たいのが人情《にんじょう》じゃないか。野暮《やぼ》をいわずに、ちょいとでいいから、ここでお見《み》せよ」
「堪忍《かんにん》しておくんなさい。道《みち》ッ端《ぱた》ではお目《め》にかけねえようにと、こいつァ妹《いもうと》からの、堅《かた》い頼《たの》みでござんすので。……」
「はてまァ、何《な》んという野暮《やぼ》だろうのう」
「どうか察《さっ》しておやンなすって。おせんにして見《み》りゃ、自分《じぶん》から文《ふみ》を書《
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