しゃまた、悪《わる》いいたずらでもされたかと思《おも》って、びっくりしたじゃァないか。何《なに》も食《く》いつくような黒《くろ》じゃなし、逃《に》げてなんぞ来《こ》ないでも、大丈夫《だいじょうぶ》金《かね》の脇差《わきざし》だわな。――こっちへおいで。頭《あたま》を撫《な》で付《つ》けてあげようから。……」
「おや、髪《かみ》がそんなに。――」
母《はは》の方《ほう》へは行《い》かずに、四|畳半《じょうはん》のおのが居間《いま》へ這入《はい》ったおせんは、直《す》ぐさま鏡《かがみ》の蓋《ふた》を外《はず》して、薄暮《はくぼ》の中《なか》にじっとそのまま見入《みい》ったが、二|筋《すじ》三|筋《すじ》襟《えり》に乱《みだ》れた鬢《びん》の毛《け》を、手早《てばや》く掻《か》き揚《あ》げてしまうと、今度《こんど》はあらためて、あたりをぐるりと見廻《みまわ》した。
「お母《っか》さん」
「あいよ」
「あたしの留守《るす》に、ここに誰《だれ》か這入《はい》りゃしなかったかしら」
「おやまァ滅相《めっそう》な。そこへは鼠《ねずみ》一|匹《ぴき》も滅多《めった》に入《はい》るこっちゃァないよ。――何《な》んぞ変《かわ》わったことでもおありかえ」
「さァ、ちっとばかり。……」
「どれ、何《なに》がの。――」
障子《しょうじ》の隙間《すきま》から、顔《かお》を半分《はんぶん》窺《のぞ》かせた母親《ははおや》を、おせんはあわてて遮《さえぎ》った。
「気《き》にする程《ほど》でもござんせぬ。あっちへ行《い》ってておくんなさい」
「ほんにまァ、ここへは来《く》るのじゃなかったッけ」
三日前《みっかまえ》の夜《よる》の四つ頃《ごろ》、浜町《はまちょう》からの使《つか》いといって、十六七の男《おとこ》の子《こ》が、駕籠《かご》に乗《の》った女《おんな》を送《おく》って来《き》たその晩《ばん》以来《いらい》、お岸《きし》はおせんの口《くち》から、観音様《かんのんさま》への願《がん》かけゆえ、向《むこ》う三十|日《にち》の間《あいだ》何事《なにごと》があっても、四|畳半《じょうはん》へは這入《はい》っておくんなさいますな。あたしの留守《るす》にも、ここへ足《あし》を入《い》れたが最後《さいご》、お母《っか》さんの眼《め》はつぶれましょうと、きつくいわれたそれからこっち、何《なに》が何《なに
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