女が出て三時間にもなる。私は諦めて寝てしまう積り。姉の手からアドルム十錠、奪いとるようにして取り、それを飲んで、うつらうつら眠くなった頃。
 突然、酔っ払った桂子が夜叉《やしゃ》のような形相で帰ってきた。私の顔をみるのもイヤだと言い、髪の毛をひきむしり、顔を打つ。そして新宿に帰るというが、もう終電車もなく、そんな桂子を表に出す気持になれない。それで姉の困りきった顔をみながらも、桂子をもう一晩、その離れに泊めようとする。しかし酔うと、酷薄無慙《こくはくむざん》な気持になる桂子は、そんな私の心づかいなど鼻で笑う。そして、近くに昔、知合いの立派な家があるから、そこに行きたいと言い張ってきかない。
 私はそんなに言うのなら、そこにやるのもよかろうと思った。だが、ひとりでは不安なので、また姉の長男に警官を呼んで来て貰い、桂子を警官に送らせようとする。しかし警官の顔をみる頃から桂子は温和《おとな》しくなった。一通り、私の悪口を警官に喋《しゃべ》ってから、その部屋に寝ることを承知する。
 朝、酔って乱暴したいつもの朝のように、桂子は、私の胸に泣き崩れてきた。肉体をかすかに揺動かす、彼女のテクニック。
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