いたような、ただ本能の奴隷となる。私は再び、もはや、彼女と別れたくない気持。彼女が前に三度、外泊したというのは一度の誤り、それも銀座から帰る途中、リリーとふたりで輪タクの運転手と喧嘩《けんか》し、K町の交番に保護検束を受けただけ、分厚い札たばというのも、十日毎位の店の収入を、纏《まと》めてみただけという、彼女の話をなんでもかんでも信じたい気持になる。
また泥棒に入られる前夜、外泊したのは事実だが、それは国際文化社という歴《れっき》とした雑誌社の編集者で、男がふたりで、女は桂子ひとり。新橋の近くの待合で一夜を飲み明かし、指一本も触れさせなかった、という桂子の話まであっさり信じてしまう。その泥棒にしても、桂子がフラフラと出て、連れてきたのではなく、マーケットで一度、逢っただけの男が、彼女の家を探りあて、麻雀《マージャン》で夜明しした後でつかれているから休ませてくれ、とノコノコ上りこんできたのだという、桂子の話も信じる。そして、桂子に頼んで、アドルムを更に十錠。そのために心気ますます朦朧《もうろう》としてきて、桂子が酒を飲みましょうか、というのに、締切間近の仕事も忘れ、ふたりで近くの中華料
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