が、私の学生時代、合宿していた艇庫の近くのある料理屋の娘と分る。それは昔、とにかく、カフェにある種の義理人情や、エチケットの存在していたのを知っている女給さんである。
彼女に比べると、私の桂子はひどく泥臭く、もの欲しげな女にみえた。私は数日前の放浪時代、浅草のレビューの女優さんたちとものを食べ、酒を飲んだこともあったが、彼女らも敗戦前の彼女らに比べ、夢やヴァニティがなく、ただ物欲的なのに失望した。そして、それよりも失望したのが、この新興喫茶というものの女給たち。そこに、一口にいえば、こんな風にガッツいていないタイプの組長に逢って、私は嬉しかった。
その夜も酔ってしまうと、省線に乗るのが面倒になり、ハイヤーで帰る。これは日本の木炭自動車で八百円。帰って、ふたりで寝ると、習慣となった摩擦行為が繰返される。私は自分の肉体の衰えと、彼女の身体のハリキリ方を身にしみて感じる。
翌日から私は仕事を始める積りだったが、朝、ふっと彼女の身体に触ってしまうと、前夜の酔いも残っていて、私には仕事ができない。オバさんに頼み、近くの薬局からアドルムを買って来て貰うと、朝から二錠、四錠とのみ出し、終日、布
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