たラーメンを二杯も食べる。昨夜のリリーに見た時のような恐るべき食欲。
帰って私たちは死んだように抱き合って寝る。朝、目がさめると、途端に私のほうからしかけてゆく抱擁《ほうよう》。酒場に勤めていた時、まるで浮気をしなかったかどうかを私は知りたい。それで色々に白状させようとするが、彼女はそのことに関すると、穿山甲《はりねずみ》が全身の毛を逆立てたような表情になるので、私は彼女を信じるよりほかない。私はこのようにして段々、嫌いになっていったのを桂子は忘れているのだ。
それは男だけに浮気の権利があって、女にはないというのではない。一度、私が桂子を棄てた以上、その間に、彼女が売春をしたことがあっても仕方がない。ただ、そうしたお互の恥ずかしいところを全部、見せ合うところに、お互の愛情と信頼が生れると思う。それがなかったために、私は妻が厭《いや》になったのだ。けれども、桂子は、それを私のカマかワナのように思っているらしい。
翌日は、彼女に勤めをやめさせる日。最後の晩、気持よく勤め、みんなにも挨拶したいというので、私は銀座|界隈《かいわい》、顔見知りの編集者に厚かましくタカって、十時半頃になって
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